飲食店は廃業と売却のどちらを選ぶ?居抜き・事業譲渡・株式譲渡を手残りで比較
飲食店を閉めるか売るか迷ったときの比較方法を解説。通常の廃業と倒産を区別し、居抜き、事業譲渡、株式譲渡の対象・費用・手続きを整理します。
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飲食店を閉めるか売るかは、売却価格の大小だけでは決められません。廃業に伴う支出と、売却後に残る義務まで同じ表へ入れて比べる必要があります。原状回復費や解約違約金を避けられても、経営者保証が残る取引なら安心して引退できないからです。
営業をやめる「廃業」と、債務を支払えず法的・私的な整理へ進む「倒産」は同じではありません。資産で債務を弁済できる通常清算と、債務超過や支払不能を伴う手続きでも選択肢は変わります。資金繰りが厳しいときは、インターネットの記事だけで決めず、金融機関、弁護士、税理士、公的支援機関へ早く相談してください。
この記事は、2026年7月21日時点の中小企業庁、中小機構、厚生労働省の公表情報を基に、居抜き、事業譲渡、株式譲渡、廃業を比較します。最初の結論は単純です。債務の支払いに余力があり、店の収益、立地、設備、人材のどれかに引継ぎ価値があるうちに、廃業費用と売却可能性を並行して調べてください。
通常の廃業と倒産を分けて考える
個人事業主が営業を終了し、税務署などへ届出をして、設備や在庫、賃貸借契約を整理するのは通常の廃業です。法人では、株主総会等で解散を決め、解散登記、債権者への公告・催告、残余財産の確定と分配、清算結了という手続きが加わります。
会社の財産ですべての債務を弁済できない場合は、通常清算だけでは終えられません。破産や特別清算などの法的整理、債権者との協議で進める私的整理を検討します。個人保証がある借入は、会社の処理と経営者個人の保証を分けて考えなければなりません。
中小企業白書は、休廃業・解散を基本的に資産超過の状態で事業を止めるものとして分析し、法的な倒産を原則として分けています。2016年に休廃業・解散した企業では、前年に黒字または利益0円だった企業が66.4%でした。古い統計なので現在の割合を示す数字ではありませんが、「廃業を考える店はすべて赤字で買い手がいない」という見方が正しくないことは分かります。
支払いが遅れ始めている、税金や社会保険料を滞納している、給与支払いの見込みが立たない、保証債務の請求が迫るといった状況なら、売却活動だけで時間を使うのは危険です。清算・再生に詳しい弁護士へ相談し、事業の一部を適法に引き継ぐ可能性と債権者への対応を同時に検討します。
比較する四つの道は、残すものが違う
| 選択肢 | 店の営業 | 主な対価 | 売り手に残り得ること |
|---|---|---|---|
| 廃業・通常清算 | 終了する | 設備・在庫等を個別処分した代金 | 原状回復、解約、従業員対応、税・登記・清算手続き |
| 居抜き・造作譲渡 | 買い手が別事業者として再開 | 内装、厨房設備、什器等の対価 | 法人・借入・未払金、対象外契約、場合により営業終了手続き |
| 事業譲渡 | 選んだ事業を買い手が引き継ぐ | 資産、店名、ノウハウ、営業権等の対価 | 対象外の資産・負債、譲渡会社、契約承継の手続き |
| 株式譲渡 | 同じ会社が営業を続ける | 株主が受け取る株式の対価 | 契約で残した義務、経営者保証、売却後の引継ぎ・補償責任 |
居抜きは、不動産賃貸借と造作の取引に近い選択肢です。譲る設備を所有しているか、賃貸人が新しい借主を認めるか、原状回復義務をどう扱うかが中心になります。店名、レシピ、従業員、仕入先などまで当然に移るわけではありません。
事業譲渡では、営業に必要な資産や権利を個別に選びます。赤字部門や不要な債務を対象外にできる一方、契約相手や従業員の同意などが必要になる場合があります。法人が事業を譲った後も、譲渡会社は残ります。受け取った対価から税金や債務を支払った後、経営者個人へお金を移す段階にも別の税務が生じ得ます。
株式譲渡では、株主が株式を売り、店を運営する会社自体は存続します。資産、負債、雇用契約などは原則として会社に残りますが、賃貸借契約に支配権変更条項がある、許認可に届出がいる、金融機関の同意が必要といった場合は個別対応が必要です。会社売却の税金と手残りを読んでから、対価を誰が受け取るのかを図にしてください。
手残りは「受取額−廃業または売却の支出」で比べる
売却案と廃業案は、同じ基準日で二つの表を作ります。
廃業案では、現預金、保証金の返還見込額、在庫・設備の処分額から、借入返済、買掛金、未払賃金、税・社会保険、解約違約金、原状回復、廃棄、登記・公告・専門家費用を差し引きます。中小機構のJ-Net21は、法人の解散・清算登記に数万円程度かかるほか、専門家報酬や店舗・工場の原状回復費が経済的負担になり得ると説明しています。
売却案では、居抜きや事業・株式の譲渡対価に保証金等の返還を加え、借入返済、仲介・専門家費用、必要な修繕、税金、対象外部分の廃業費用を引きます。提示された売却価格が高くても、最低報酬のある仲介手数料や消費税、残債の返済を入れると手残りは変わります。計算の入口は飲食店の売却相場、税務上の違いは会社売却の税金と手残りで確認できます。
2019年版中小企業白書では、廃業時に100万円以上の費用がかかった回答が36.2%でした。また、何らかの経営資源を有償で引き継いだ回答が60.8%、100万円以上の対価を受け取った回答が44.1%でした。調査対象・時期の限られた過去データで、あなたの店の成約確率や費用を示すものではありません。それでも、原状回復してすべて捨てる前に、設備、在庫、顧客、技術を分けて引継ぎ可能性を調べる理由にはなります。
飲食店では営業許可と賃貸人への相談を先延ばしにしない
飲食店営業の許可は、2023年12月13日から一定の事業譲渡で承継届による地位の承継が可能になりました。厚生労働省は、譲渡を証する書類等の添付と、管轄保健所への事前相談を案内しています。菓子製造業など複数の許可を持つ場合や、施設・事業の一部だけを譲る場合は、対象ごとに確認してください。
「許可がそのまま使える」と契約で約束してはいけません。営業許可以外にも、深夜酒類提供飲食店営業、酒類販売、屋外広告、消防、建築、音楽利用、テラス使用などの手続きがあり得ます。買い手の業態変更や設備改修によって新たな確認が必要になることもあります。
賃貸人への相談時期も重要です。早すぎる開示は風評や営業への影響を招き、遅すぎれば承諾を得られず取引が止まります。賃貸借契約を読み、譲渡交渉を支援する専門家と開示順を決めます。保証金の返還先、新規契約の条件、原状回復義務の免除範囲は口頭で済ませず、書面に残してください。
従業員と取引先は「店ごと自動で移る」と考えない
事業譲渡で雇用契約を買い手へ移すには、原則として従業員本人の同意が必要です。誰を対象にするか、賃金・勤続年数・有給休暇をどう扱うかを早く決める一方、交渉中の機密保持にも配慮が必要です。伝える時期は案件ごとに異なります。
居抜きでは、従業員の雇用は通常、造作と一緒に移りません。買い手が改めて採用するなら、退職と採用の条件を区別します。株式譲渡では雇用主である会社は同じでも、役割、勤務地、就業規則を一方的に変えられるとは限りません。
仕入先、予約客、宴会契約、回数券や前受金も一覧にします。とりわけ未使用の食事券、予約金、デリバリーサービスの売上精算は、誰が履行・返金するかを明らかにしてください。常連客の個人情報を買い手へ渡す場合は、利用目的とプライバシーポリシーも確認が要ります。
売却を試す期限と、廃業へ切り替える条件を決める
売却活動を始めれば必ず買い手が見つかるわけではありません。希望価格に固執して資金が尽きると、従業員や取引先への支払いが難しくなります。最初に次の三つを決めておくと、判断を先送りしにくくなります。
- いつまでに初期提案や買い手候補がなければ条件を見直すか
- 手元資金がいくらを下回る前に、通常廃業または法的相談へ切り替えるか
- 価格以外に譲れない条件は何か。従業員雇用、店名、保証解除、退任時期など
売却の標準期間を「3か月」「半年」と保証することはできません。資料の整備、買い手探索、賃貸人や金融機関との調整、デューデリジェンスの深さで変わります。廃業の予告期限や賃貸借の解約予告もあるため、会社売却の10ステップと契約上の締切を一つの工程表へ入れてください。
早い段階なら、廃業と売却を同時に比べられる
廃業は倒産と同義ではなく、売却は債務をすべて消す手段でもありません。通常の廃業、居抜き、事業譲渡、株式譲渡を、受取額、支出、残る義務、必要期間、従業員・取引先への影響で比べます。数字を置けない欄が、次に確認すべき場所です。
最初の一週間で、賃貸借契約、借入・保証、設備所有者、直近決算、許認可を集めてください。資金繰りに余力があれば、事業承継・引継ぎ支援センターや金融機関へ売却可能性を相談しつつ、税理士と廃業時の手残りも試算できます。債務を支払えない懸念がある場合は、通常廃業の説明だけを頼りにせず、弁護士へ相談することが先です。
参考にした一次情報
- 廃業の留意点と進め方(J-Net21・中小機構)
- 2019年版中小企業白書「廃業とそれに伴う経営資源の引継ぎ」(中小企業庁)
- 2019年版中小企業白書「休廃業・解散した企業の収益状況」(中小企業庁)
- 事業承継を知る(中小企業庁)
- 事業譲渡に関する手続が整備されます(厚生労働省)
この記事は2026年7月21日時点の公表情報に基づく一般的な解説です。債務整理、廃業、雇用、税務、許認可、契約の扱いは個別事情で変わります。支払不能や債務超過のおそれがある場合を含め、弁護士・税理士・社会保険労務士などの専門家と所管行政機関へご相談ください。
執筆・編集
ウルコト / 執筆・編集
中小企業庁や国税庁などの一次情報を優先し、会社売却・事業承継を初めて検討する方の判断材料を整理します。個別の税務・法務判断には踏み込みません。
- ・公的機関・各社公式サイトを優先して参照
- ・制度・料金情報は調査日と更新日を確認
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