会社売却の税金と手取りはいくら?株式譲渡・事業譲渡を計算例で整理
会社売却後の手取りを、個人株主の株式譲渡と法人による事業譲渡に分けて解説。譲渡所得、法人税、消費税、成功報酬を含む試算の順番を整理します。
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会社売却の手取りは、売却価格だけでは分かりません。先に確認すべきなのは、誰が何を売り、誰が代金を受け取るかです。個人株主が自社株を売る株式譲渡と、会社が事業を売る事業譲渡では、納税する人・会社も計算方法も異なります。
個人株主による非上場株式の譲渡なら、基本形は「譲渡価額−取得費−売却手数料等」で譲渡益を求め、所得税・住民税等を計算します。一方、事業譲渡の代金は売り手会社に入り、譲渡損益はその会社の所得計算へ反映されます。会社からオーナー個人へ資金を移すときには、役員報酬、配当、退職金、清算分配などに応じた別の税務が生じます。
この記事では、2026年7月21日時点の国税庁公表情報に基づき、税引後手取りを試算する順番を解説します。税額は株主構成、過去の取得経緯、会社の所得・欠損金、所在地、資産配分などで変わるため、例示額をそのまま自社へ当てはめないでください。
最初に「株式譲渡か事業譲渡か」を確定する
中小企業の会社売却では、主に株式譲渡と事業譲渡が使われます。会社売却の流れのどの段階でも、手取り計算では次の三者を分けます。
- 株式を持つ個人または法人
- 事業・資産・負債を持つ会社
- 取引後に資金を使いたいオーナー個人
個人株主が株式を売る場合、売却代金は原則として株主が受け取ります。会社が事業を売る場合、代金を受け取るのは会社です。「事業を1億円で売ったので、オーナーに1億円入る」という計算にはなりません。
また、株式譲渡では会社の借入金が会社に残るのが通常です。価格交渉では借入金や現預金が株式価値に反映されることがありますが、会社の借入返済額を個人株主の譲渡所得から当然に控除できるわけではありません。取引価格の定義と税務上の必要経費を混同しないことが重要です。
個人株主が非上場株式を売る場合
国税庁は、上場株式等以外の株式を「一般株式等」とし、その譲渡益を次の式で計算すると案内しています。
譲渡益 = 譲渡価額 − 取得費 − 委託手数料等
一般株式等の譲渡益には、給与などの所得と分けて税額を計算する「申告分離課税」が適用されます。国税庁の表示税率は20%で、内訳は所得税15%、住民税5%です。さらに2037年までは、所得税額に対して2.1%の復興特別所得税がかかります。単純換算すると、譲渡益に対する合計は20.315%です。
ただし、この20.315%を使えるのは、個人株主による一般株式等の譲渡という前提を満たす場面です。法人株主が株式を売る場合や、会社が事業を売る場合の税率ではありません。
取得費は設立時の払込額とは限らない
取得費には、株式の払込代金・購入代金と、その取得に要した購入手数料や名義書換料などが含まれます。相続・贈与、株式分割、増資、組織再編を経ていると、設立時の資本金だけを見ても計算できません。
国税庁は、古い取引などで取得費が分からない場合、同一銘柄ごとに売却代金の5%相当額を取得費とすることも認めています。ただし、実際の取得費が5%を上回るなら、安易に概算取得費を選ぶと譲渡益が大きくなります。株式払込の通帳、契約書、申告書、相続資料を先に探してください。
個人株主の計算例
次の前提で、概算の手取りを計算します。
- 株式の譲渡価額:1億円
- 株式の取得費:500万円
- 仲介会社・FA(フィナンシャル・アドバイザー)等への支払額:500万円
- 500万円全額が税務上の売却手数料等に該当すると仮定
- 他の特例、損益通算、予定納税等は考慮しない
譲渡益は「1億円−500万円−500万円=9,000万円」です。税額の概算は「9,000万円×20.315%=1,828万3,500円」となります。
現金ベースの概算手取りは「1億円−支払額500万円−税額1,828万3,500円=7,671万6,500円」です。この例では計算を見せるため、支援費用が売却手数料等に当たると仮定しました。実際には契約内容と支出目的により必要経費への算入可否が変わるため、請求書の総額をそのまま引かないでください。
法人株主が株式を売る場合
株主が持株会社などの法人なら、株式の譲渡損益はその法人の所得計算へ入ります。個人株主の20.315%を掛ける計算ではありません。
国税庁が公表する普通法人の法人税率には、一定の資本金1億円以下の法人の年800万円以下の所得部分に15%、それ以外の普通法人等に23.2%などの区分があります。しかし、これは国税である法人税の税率表です。地方法人税、法人住民税、法人事業税等を含む一律の「会社売却実効税率」ではありません。
さらに、2026年4月1日以後に開始する事業年度からは防衛特別法人税が適用されます。国税庁の案内では、一定の方法で計算した基準法人税額から年500万円を控除した額に4%を乗じます。法人税率表だけを見て、この新しい付加税を落とさないよう注意が必要です。
その法人の他の利益・損失、繰越欠損金、受取配当、グループ通算、所在地、資本金、事業年度などで納付額は変わります。法人株主の手取りは、税理士に取引後の法人全体の所得見込みを渡して試算します。
事業譲渡は売り手会社に課税関係が生じる
事業譲渡では、売り手会社が建物、設備、在庫、契約上の地位、商標、ノウハウ、のれんなどを個別に譲渡します。譲渡価額と税務上の帳簿価額等との差額は、売り手会社の所得計算へ反映されます。株式譲渡のように、個人株主が自分の株式を売った譲渡益へ20.315%を掛ける取引ではありません。
たとえば、事業の税抜譲渡価額が1億円、対象資産の税務上の帳簿価額が2,000万円、譲渡に直接要した費用が500万円だとします。500万円を税務上の費用(損金)として全額計上できると仮定すると、譲渡益の単純計算は7,500万円です。ただし、その事業年度の本業の利益・損失や欠損金なども合算されるため、「7,500万円×固定税率」で最終税額は出せません。
さらに、代金は会社に残ります。オーナーが個人で使うために会社から受け取ると、受け取り方に応じて給与所得、配当所得、退職所得、清算分配に伴う課税などを検討することになります。役員退職金も、支給すれば常に有利とは限りません。退職の実態、金額の相当性、会社法上の手続き、会社側の損金算入時期を確認します。
消費税は「株式か事業か」で大きく違う
株式は有価証券に当たるため、株式の譲渡は消費税の非課税取引です。一方、事業譲渡では、譲渡する資産ごとに消費税の扱いを判定します。
国税庁は、商品、建物、機械、備品、特許権などの無体財産権の譲渡を、原則として消費税の課税対象となる資産の譲渡の例に挙げています。土地や有価証券の譲渡は原則として非課税です。したがって、建物、設備、在庫、のれん等と、土地・有価証券等が混在する事業譲渡では、譲渡価額を資産ごとに合理的に配分しなければなりません。
契約書の「譲渡価額1億円」が税込みか税抜きか、どの資産へいくら配分したかが曖昧だと、売り手と買い手の認識がずれます。消費税は譲渡益に対する法人税等とは別に、契約交渉と資金繰りへ織り込んでください。
成功報酬は税抜きと基準額を確認する
税引後手取りでは、税金のほかに支援者への費用も控除します。M&A仲介手数料の成功報酬は、同じ料率でも「株式譲渡価額」「企業価値」「移動総資産」など、何を基準額にするかで変わります。最低報酬、着手金、中間金、デューデリジェンス費用、弁護士・税理士費用、消費税も確認します。
見積書は次の形に統一すると比較しやすくなります。
- 譲渡価額と、その税込み・税抜きの別
- 現預金・借入金を含む価格調整
- 支援会社の報酬基準額、料率、最低報酬、消費税
- 弁護士、税理士、登記、許認可などの別途費用
- 税務上の取得費・帳簿価額と、費用の取扱い
- 売り手に残る税引前現金と、納付見込税額
公募回と申請枠によっては、FA・仲介やデューデリジェンスの費用が事業承継・M&A補助金の対象候補になることがあります。ただし、申請すれば必ず受給できる制度ではなく、交付決定前の契約・発注が対象外になる場合があります。補助金を手取りへ加えるのは、対象経費、契約時期、採択・交付決定を確認した後にしてください。
高い売却価格を提示されても、経営者保証、役員借入金、退職金、運転資金、最終価格調整の条件で手取りは変わります。会社売却の流れの基本合意前と最終契約前に、同じ前提で試算を更新してください。
税理士へ渡す資料を先に揃える
初回相談では、次の資料があると計算の前提を確認しやすくなります。
- 株主名簿と、株主ごとの取得日・取得価額が分かる資料
- 増資、相続、贈与、株式分割、組織再編の履歴
- 直近の申告書、決算書、固定資産台帳、繰越欠損金の資料
- 借入金、役員借入金、経営者保証、個人所有資産の一覧
- 支援契約書と費用見積書
- 株式譲渡・事業譲渡の想定価格と資産別の配分案
売却価格だけで相談すると、取得費や消費税を後から調べることになります。候補先へ提示する価格帯が見えた段階で、株式譲渡と事業譲渡の両案を同じ表に置き、「売り手会社」「株主」「オーナー個人」の資金を分けてください。
手取りは一つの税率ではなく、資金の流れで計算する
個人株主の株式譲渡なら、譲渡益に対する20.315%が概算の出発点になります。ただし、取得費と必要経費の確認が欠かせません。法人株主の株式譲渡や会社による事業譲渡は、法人全体の所得と地方税等を含めた試算が必要です。
最初に、売るもの、代金の受取人、取得費・帳簿価額、支援費用、消費税、会社から個人へ資金を移す方法を一枚にまとめます。その表を税理士と取引の弁護士へ渡し、基本合意と最終契約の前に更新することが、手取りの思い違いを減らす近道です。
参考にした一次情報
- 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)(国税庁)
- 譲渡した株式等の取得費(国税庁)
- 法人税の税率(国税庁)
- 防衛特別法人税の創設に関する案内(国税庁 e-Tax)
- 資産の譲渡の具体例(国税庁)
- 非課税となる取引(国税庁)
この記事は2026年7月21日時点の公表情報に基づく一般的な解説であり、税務・法務上の助言ではありません。適用税率、取得費、必要経費、消費税、申告方法は当事者と取引条件により異なり、記載した税額や手取りを保証するものではありません。個別の取引は税理士・弁護士などへご相談ください。
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ウルコト / 執筆・編集
中小企業庁や国税庁などの一次情報を優先し、会社売却・事業承継を初めて検討する方の判断材料を整理します。個別の税務・法務判断には踏み込みません。
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