会社売却の流れを10ステップで解説|相談からクロージングまで
会社売却を検討してから買い手探索、基本合意、デューデリジェンス、最終契約、決済までの10ステップを解説。期間が延びる要因と経営者保証の確認時期も整理します。
会社売却は、買い手を見つけて契約書へ押印すれば終わる取引ではありません。売却の目的と条件を決め、限られた相手へ情報を開示し、調査結果を契約へ反映し、代金・株式・経営者保証などを実際に処理するところまでが一続きです。
実務は10ステップで見渡せます。ただし、すべての案件が同じ順番・同じ期間で進むわけではありません。基本合意を省く小規模取引もあれば、許認可や金融機関との協議でクロージングまで時間がかかる案件もあります。「会社売却は半年で終わる」といった期間保証はできません。
この記事は、2026年7月22日時点の中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」と関連資料を基に、売り手側の動きを10段階に整理しました。この順番は完成予定表ではありません。初めての相談で見落としを探す地図として使ってください。
ステップ1 売却する理由と譲れない条件を言葉にする
最初に決めるのは、売却後に何を残したいかです。後継者不在、健康、事業の成長、別事業への集中など、理由によって買い手と条件が変わります。希望価格は、その目的と条件を言葉にしてから検討します。
従業員の雇用、社名・ブランド、取引先、経営者の退任時期、個人所有不動産、経営者保証を一覧にし、「必須」「希望」「交渉可能」に分けます。全条件を必須にすると候補が狭まり、価格だけを優先すると売却後に後悔しやすくなります。家族や他の株主とも、売る範囲と時期を話してください。
株式譲渡では会社の株主が変わり、会社の資産・負債・契約は原則その会社に残ります。事業譲渡では、選んだ事業資産や契約を会社間で移します。株式譲渡と事業譲渡の違いを確認し、対価を受け取る人・会社、残す事業、必要な承諾を書き出します。
ステップ2 相談先を選び、支援契約の費用と立場を確認する
相談先には、事業承継・引継ぎ支援センター、金融機関、M&A仲介会社、売り手FA、マッチングプラットフォーム、弁護士、税理士などがあります。1社ですべてを担えるとは限りません。
仲介は同じ支援者が売り手と買い手の間を調整する形、FAは一方当事者と契約して助言する形です。中小M&Aガイドラインは、仲介に利益相反の可能性があることを踏まえ、手数料、支援範囲、直接交渉の制限、他社との契約や直接交渉を制限する専任条項、契約終了後も一定期間は成功報酬が発生し得るテール条項などの説明を求めています。
契約前に、着手金、中間金、成功報酬、最低報酬、消費税、別の専門家費用を想定価格で計算します。レーマン方式は料率表が同じでも、株式価値、譲渡対価、移動総資産など基準額で報酬が変わります。M&Aマッチングサービスを比較するときも、料金だけでなく交渉・契約を誰が支援するかを確認してください。
ステップ3 資料を集め、会社の現状と株主を確認する
直近3期の決算書・申告書、月次試算表、借入、リース、固定資産、契約、許認可、従業員、訴訟・クレーム、株主名簿を集めます。会社と経営者個人の資産が混ざっている場合は分けてください。
株式譲渡では、売ろうとする株式を本当に保有しているか、譲渡制限、名義株、相続で分散した株式、所在不明株主を確認します。過去の株主総会・取締役会議事録や登記に不整合があれば、買い手探索の前に弁護士・司法書士へ相談します。
都合の悪い情報を隠すと、後のデューデリジェンスで価格減額や交渉中止、最終契約後の補償請求につながります。未払残業代、個人名義の取引、更新していない許認可などは「ないこと」にせず、事実、金額、対応状況を記録します。
ステップ4 企業価値を試算し、売却条件の幅を作る
企業価値は一つの計算式で確定しません。中小企業庁の参考資料は、簿価純資産法、時価純資産法、類似会社比較法などを紹介し、算出額がそのまま譲渡額になるとは限らないと説明しています。
時価純資産に数年分の利益を加える試算もありますが、どの利益を何年分使うかは案件ごとの交渉です。希望額、根拠を説明できる額、債務・費用・税を引いた最低手残りを分け、価格が上がったときに税・成功報酬がどう動くかを見ます。
査定額が高い支援会社を選べば、その価格で売れるわけではありません。買い手候補、評価方法、前提、除外した負債、費用の基準額を提案書に書いてもらいます。
ステップ5 匿名資料から買い手候補を探す
会社名を出さず、業種、地域、売上規模、利益、従業員、売却理由などをまとめた資料をノンネームシートと呼びます。初期段階では特定されない粒度にし、候補の関心と適格性を確かめます。
候補は同業者だけとは限りません。隣接業種、取引先、地域企業、創業希望者などが価値を見いだす場合があります。価格だけでなく、資金力、買収目的、過去のM&A、従業員雇用、情報管理を確認します。
M&A専門業者が実施する買い手調査の範囲も確認します。買い手の財務諸表、預金通帳や融資証明書、事業実態、過去のトラブル情報など、最終契約を履行できる意思・能力を何によって確かめたか、確認できなかった事項も共有してもらってください。
秘密保持契約を結ぶ前に決算書や顧客名簿を送らないでください。社内で交渉を知る人を絞り、ファイルの保存先、閲覧者、送付履歴を管理します。複数候補へ同時に開示するときも、資料の版と質問回答を揃えます。
ステップ6 秘密保持後に情報を開示し、トップ面談で目的を確かめる
候補と秘密保持契約を結んだら、企業概要書、決算、事業資料などを段階的に開示します。秘密保持契約は情報漏えいを完全に防ぐ保証ではありません。秘密情報の定義、利用目的、開示できる役職・専門家、返却・破棄、従業員や取引先への接触禁止を確認します。
トップ面談では、価格の即決より相互理解を優先します。売り手は会社の強みと課題、売却理由、希望条件を伝えます。買い手には、買収後の経営方針、投資、雇用、経営者に求める引継ぎ期間を聞きます。
候補から、価格やスキーム、今後の調査方針を記した意向表明書を受けることがあります。法的拘束力の範囲は文書ごとに異なるため、名称だけで判断しません。複数候補を比べる場合は、価格、資金調達、雇用、保証解除、スケジュール、条件の確度を同じ表へ置きます。
ステップ7 基本合意で主要条件と次の調査を決める
条件が概ね合ったら、売り手と買い手は基本合意を結ぶことがあります。基本合意書(LOI)には、想定する譲渡方法、予定価格、役員・従業員の処遇、最終契約までの日程、デューデリジェンス、独占交渉などを記載します。
基本合意の価格は、DD前の予定額です。最終価格ではありません。独占交渉義務や秘密保持など一部を法的拘束力ありとし、価格や成約義務は拘束しない構成もあります。どの条項に拘束力があるかを弁護士へ確認してください。
資金繰りなどで決済を急ぐ小規模案件では、基本合意を結ばず最終契約へ進む場合もあると中小M&Aガイドラインは説明しています。省略すれば安全になるわけではありません。主要条件と調査範囲を別の書面で明らかにします。
ステップ8 デューデリジェンスで事実を確認する
買い手が財務、税務、法務、事業、労務、ITなどを調べる工程がデューデリジェンス(DD)です。買い手は、取引を実行するか、価格・表明保証・補償をどう調整するかを判断します。売り手にとっても、調査が不十分だと最終契約で広い表明保証を求められる可能性があります。
質問には、資料番号と回答日を付けて一貫して答えます。分からない項目を推測で埋めず、確認担当者と回答予定日を伝えます。従業員に未公表なら、資料収集で交渉が知られないよう支援者と方法を決めます。
DDで問題が出ても、必ず破談になるとは限りません。価格調整、売り手による是正、補償、クロージング条件、対象事業の変更で対応する場合があります。問題の影響と負担者を契約へ落とせなければ、口頭の「大丈夫です」は役に立ちません。
ステップ9 最終契約で価格・責任・保証解除を確定する
DDの結果と未決事項を交渉し、株式譲渡契約や事業譲渡契約を結びます。対象、価格、支払方法、クロージング条件、表明保証、補償、解除、競業避止、売却後の引継ぎを確認します。
譲渡対価の分割払いや退職慰労金などの後払いは、期日に履行されないリスクがあります。クロージング時の支払額だけで判断せず、買い手の支払能力を確認した上で、支払時期、不履行時の解除・買戻し・補償などを弁護士と最終契約へ反映します。
表明保証は、会社・株式・決算・税務・契約などについて、一定の事実が正しいと当事者が表明する条項です。無期限・無制限の責任を定型的に受け入れず、DDで分かった事実、開示した資料、責任上限、期間、請求手続きを弁護士と検討します。
経営者保証は、株式を売れば自動的に消えるものではありません。解除や買い手側への移行には、保証先である金融機関等の判断と手続きが必要です。解除が売却の目的の一つなら、M&Aを進める前から金融機関や専門家へ相談することも検討します。M&Aを進める場合も成立前のできる限り早い段階で相談し、金融機関の審査期間を含む予定を組んでください。事前に相談しても解除等が確定するとは限りません。
最終契約には、解除・移行を買い手の義務として明記し、クロージング条件、実現しなかった場合の解除・補償などを検討します。買い手が「引き継ぐ」と言っただけでは、金融機関が売り手経営者を保証人から外したことにはなりません。
ステップ10 クロージングを実行し、引継ぎを始める
契約締結と決済・株式移転を別日にする場合、クロージングまでに前提条件を満たします。必要書類、株券の有無、株主名簿書換、役員変更、代金着金、印章・通帳・アカウント、許認可届出、経営者保証手続きを一覧にし、当日の順番と担当者を決めます。
事業譲渡では、資産・契約・従業員の承継を個別に確認します。契約締結日までに全承諾が揃わない場合、クロージング条件や対象除外を明確にします。株式譲渡でも、支配権変更の承諾や届出が必要な契約・許認可があります。
着金と名義変更を確認したら、従業員、取引先、顧客への説明を合意した順で行います。買い手側はPMI、つまりM&A後の統合作業を始めます。売り手経営者が一定期間残るなら、役職、権限、報酬、勤務日、終了条件を書面にしてください。
期間を延ばす五つの要因を先に潰す
会社売却の所要期間を一律に示す公的な保証はありません。候補がすぐ見つかっても、次の要因で日程は変わります。
- 株主名簿、決算、契約、許認可が揃っていない
- 価格・雇用・退任時期など売り手条件の優先順位が決まっていない
- 買い手の資金調達や社内決裁に時間がかかる
- DDで未払債務、権利関係、法令対応などの問題が見つかる
- 金融機関、賃貸人、取引先、行政機関の承諾・手続きが必要になる
「いつ売れるか」だけを聞くより、各工程の完了条件と、外部承諾に必要な期間を聞いてください。予定表には余裕を持たせ、資金繰りと経営を止めない担当者を残します。売却交渉中に業績が崩れると、評価と買い手の判断が変わります。
最初の一歩は、資料と条件を一枚にすること
会社売却の10ステップは、相談先、買い手、取引規模によって省略・統合されます。それでも「目的→支援契約→資料→評価→探索→面談→基本合意→DD→最終契約→クロージング」という流れを知っていれば、次に誰が何を決めるか見失いにくくなります。
明日用意するのは、直近3期の決算書、株主名簿、借入・保証一覧、主要契約、許認可一覧です。そこへ、譲れない条件を三つまで書きます。秘密情報を送る前に、事業承継・引継ぎ支援センターや複数の支援会社へ、料金と支援範囲を確認してください。
参考にした一次情報
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁)
- 中小M&Aガイドライン関連資料(中小企業庁)
- 中小M&A時の経営者保証の取扱いについて(中小企業庁)
- M&Aに関するトラブルにご注意ください(中小企業庁)
- M&A、事業承継に関する相談(中小企業庁)
この記事は2026年7月22日時点の公表情報に基づく一般的な流れです。必要な手続き、期間、契約、税務、許認可、保証の扱いは案件により異なります。成約や保証解除を約束するものではありません。個別の取引は弁護士・税理士・公認会計士・金融機関などへご相談ください。
FAQ
よくある質問
- 会社売却にはどのくらいの期間がかかりますか?
- 一律の期間はありません。資料の準備状況、買い手候補、デューデリジェンスで見つかった論点、金融機関や取引先など外部関係者の手続きによって変わります。
- 株式を譲渡すれば経営者保証は自動的に解除されますか?
- 自動的には解除されません。保証先である金融機関等と協議し、解除や買い手側への移行に必要な手続きを確認します。
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ウルコト / 執筆・編集
中小企業庁や国税庁などの一次情報を優先し、会社売却・事業承継を初めて検討する方の判断材料を整理します。個別の税務・法務判断には踏み込みません。
- ・公的機関・各社公式サイトを優先して参照
- ・制度・料金情報は調査日と更新日を確認