M&Aの表明保証に署名する前に、売り手が整理する例外事項
M&Aの表明保証への署名前に、売り手が契約上の陳述と根拠資料、確認責任者、既知の例外、未確認事項を対応づけ、専門家と検討できる実務用の判断表の作り方を解説します。
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M&Aの表明保証に署名する前は、契約上の陳述ごとに、何を根拠に確認したか、誰が確認したか、どこに例外があり、何が未確認かを一行で結びます。契約案を「おおむね合っている」と読むだけでは確認の抜けが見えません。判断表を弁護士・税理士へ渡せる状態にすることが、事実確認と例外開示の出発点です。
資料が見つからない項目や担当者の記憶しかない項目は、未確認の理由を記録し、既知の例外と分けて扱います。ただし、どの事情をどの方法で開示すれば契約上十分か、表明保証の文言をどう直すべきかは案件ごとの判断です。確認記録を材料に専門家と詰める必要があります。
M&Aの表明保証はDDの確認結果と切り離さない
表明保証の確認は契約書の中で完結しません。2026年9月21日時点の中小M&Aガイドライン(第3版)では、適切な範囲の設定にあたり、DDの結果、問題が顕在化する可能性、影響の大きさ、譲渡対価への織込みを勘案し、当事者双方の認識を擦り合わせることが重要だとしています。売り手には、買い手がどの問題点を認識して表明保証を求めているのかを確認し、その妥当性を議論することが望ましいとも述べています。
契約案の「法令違反はない」「重要な契約は有効である」といった陳述を、DDで渡した資料、回答した質問、残った論点と照合します。買い手の指摘と契約文言の射程が対応していなければ、想定外の事実まで陳述に含まれるおそれがあります。懸念が契約案へどう反映されたか分からない項目では、例外として開示すべき事項も決められません。
同日時点で、中小機構「M&Aの一般的な手順と注意点」は、DDの主な確認領域に、簿外債務、収益性、在庫評価、過年度税務リスク、訴訟、契約の有効性、許認可、労働環境を挙げています。DD結果を踏まえて価格、表明保証、補償条項などの最終条件を交渉するとも説明しています。DD資料の整理と表明保証の確認は、同じ事実を異なる角度から確かめる一連の作業です。DD前の準備は、M&Aのデューデリジェンスで売り手が準備することも参照してください。
陳述・資料・責任者・未確認事項をつなぐ判断表
次の表は、公的資料の一般原則を基にした実務上の提案です。原典所定の分類や義務には当たらず、契約案の一文を起点に確認の根拠と残課題を一行で追うための台帳です。
| 論点群 | 契約上の陳述 | 確認資料・基準日 | 確認責任者 | 確認結果 | 既知の例外 | 未確認事項 | 専門家への質問 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 株式・会社組織 | 株式や承認手続に関する契約案の文言を転記 | 株主名簿、定款、議事録/各資料の基準日 | 代表者、総務担当など実際の確認者 | 資料で確認・例外あり・未確認 | 名簿と認識の差など、判明した事実 | 原本所在や更新状況など、不明な範囲 | 必要な確認範囲と開示方法は何か |
| 財務・税務 | 計算書類、債務、申告等に関する文言を転記 | 帳簿、申告資料、在庫資料/対象時点 | 経理担当、顧問税理士など | 同上 | 帳簿外で把握する債務など | 集計根拠や過年度の確認不足 | 条項の範囲と税務上の追加確認は何か |
| 資産・負債 | 所有権、担保、債務等に関する文言を転記 | 資産台帳、登記資料、借入契約/対象時点 | 経理担当、資産管理者など | 同上 | 担保設定、簿外で把握する債務など | 台帳と現物の照合不足 | 追加調査や開示が必要な範囲は何か |
| 重要契約 | 契約の有効性や違反の不存在に関する文言を転記 | 契約書、変更合意、解約通知/確認日 | 契約を管理する担当者 | 同上 | 口頭変更、履行差異など | 契約一式の網羅性 | 例外記載はどの単位で行うか |
| 人事・労務 | 雇用、賃金、紛争等に関する文言を転記 | 就業規則、雇用契約、勤怠資料/対象期間 | 労務担当、代表者など | 同上 | 運用と規程の差など | 保存資料の欠落、事実関係の未聴取 | 文言が実際の運用を含むか |
| 訴訟・紛争 | 係争や請求の有無に関する文言を転記 | 訴状、通知、交渉記録/確認日 | 代表者、案件担当者など | 同上 | 継続中の請求、紛争の予兆など | 関係者への聴取不足 | 開示対象と記載範囲はどこまでか |
| 許認可・コンプライアンス | 許認可の有効性、法令遵守等の文言を転記 | 許可証、届出控え、行政との連絡/有効期限・確認日 | 業務責任者 | 同上 | 更新、名義、届出内容の差など | 適用法令や必要手続の判断 | 行政・弁護士への確認が必要か |
「確認結果」は「資料で確認」「既知の例外あり」「未確認」の三つから選びます。資料が存在しても、基準日が陳述の対象時点と合わなければ未確認です。例外は判明している事実として独立させます。この区別により、社内の追加確認と、専門家へ相談する契約上の扱いを切り分けられます。
論点群は会社の実情に合わせて広げる
判断表は少なくとも「株式・会社組織」「財務・税務」「資産・負債」「重要契約」「人事・労務」「訴訟・紛争」「許認可・コンプライアンス」に分けます。公的資料の一般的な調査観点を基にした記事独自の整理であり、原典所定の台帳には当たりません。
中小M&Aガイドラインは、法務DDの一般的な観点として、株式・会社組織、重要な契約、資産・負債、人事・労務、訴訟・紛争、許認可・コンプライアンス・環境問題などを挙げ、判明した法的リスクと現実的な対応策を可能な限り整理することが望ましいとしています。環境関係の許認可や固有の規制が関係する会社は、その論点群も追加します。項目を増やす際も、確認者と資料を必ず対応づけます。
「資料がある」と「確認できた」を分ける
小規模事業では、正式な規程より日々の運用が先に立つことがあります。2026年9月21日時点の中小M&Aガイドラインも、小規模企業では会計帳簿や各種規程類が整備されていない場合が多いため、買い手の意向も踏まえ、DDで求められると想定される書類やデータを早い時期から整備する必要があるとしています。
だからこそ、ファイル名を台帳へ貼るだけでは足りません。各行で次を確かめます。
- 対象範囲:全社か、特定事業・拠点・期間だけか
- 基準日:契約上の陳述が求める時点と資料の作成・更新時点が合うか
- 作成経緯:通常業務で作られた資料か、今回の確認のためにまとめた説明か
- 網羅性:別管理の台帳、口頭の合意、未回収の原本がないか
- 確認者:内容を説明できる担当者が実際に見たか
不足が見つかったら、「基準日が古い」「原本の所在不明」「担当者への確認未了」のように理由を残します。担当者の記憶は手掛かりとして記録し、資料確認済みとは区別します。追加資料を取得した日、解消した点、残った点も追記します。この記録方法は出典の一般原則を基にした実務上の提案です。
既知の例外欄には、契約上の陳述と一致しない可能性がある事実を記します。書面上の契約条件と実際の運用が異なるなら、差異の内容、関係資料、確認者を結びます。「軽微だから問題なし」「昔からの運用なので有効」といった評価は専門家への質問欄へ移し、売り手側で法的な結論を確定させない扱いが適切です。
未確認のまま残すなら、理由と次の確認先を記録する
未確認は、放置を意味しません。確認できない理由を分解すると、次の行動が決まります。
| 未確認の状態 | 売り手が残す記録 | 次の行動 |
|---|---|---|
| 資料が見つからない | 探した場所、管理担当、代替資料の有無 | 管理担当へ再確認し、代替資料で足りるか専門家へ聞く |
| 資料の基準日が古い | 資料の基準日、その後の変更の有無を確認した相手 | 最新状態を確認し、対象時点とのずれを整理する |
| 担当者の記憶だけ | 聞き取った相手、確認できた範囲、裏付けの有無 | 書面や第三者保有資料を探し、残る不確実性を伝える |
| 確認範囲が不明 | 対象に含めた事業・拠点・期間 | 契約文言が求める範囲を弁護士へ確認する |
| 判断に専門知識が必要 | 事実、資料、判断できない点を分けたメモ | 法務は弁護士、税務は税理士など適切な専門家へ渡す |
この表も、出典の一般原則を基にした記事独自の提案です。未確認を「問題なし」に置き換えると、不確実性が見えなくなります。「事実が不明」と「事実は判明しているが契約上の評価が不明」を分けることで、社内確認と専門家判断の境界が明確になります。
弁護士・税理士へ渡す資料を質問単位でまとめる
専門家へは、契約案、判断表、根拠資料、DDの質問回答、買い手からの指摘を同じ論点単位で渡します。「この条項で大丈夫か」という相談を、次の形まで具体化します。
- この陳述は、どの会社・事業・期間・知識範囲を対象にするのか
- 把握済みの事実を、どの資料と表現で例外開示するのか
- 未確認事項が残る場合、追加確認、文言修正、例外開示のどれを検討するのか
- 表明保証が適用される場面、期間、責任上限は明確か
- DDで買い手が認識した問題と、契約案の条項や補償の関係はどう整理されているか
質問に事実と資料を添えると、専門家は自社の確認状況に沿って検討できます。中小M&Aガイドラインは、期間や責任上限がない、または適用場面が一義的に明確でない規定には、売り手が過大な責任を負って争いになるリスクがあるとし、無期限・無制限または適用場面が判然としない条項を慎重に検討すべきとしています。また、中小M&Aの株式譲渡契約では表明保証条項が記載されることが多く、経営者が内容を正しく理解せず事実に反する表明保証をする場合も想定されるため、顧問税理士には弁護士等と連携した確認と助言が期待されるとしています。いずれも2026年9月21日時点の確認です。
最終契約までの位置づけは、会社売却の流れと各段階で必要な準備で確認できます。判断表は、契約交渉に必要な事実の欠落を防ぐ土台です。
署名前に確認する完了条件
署名準備は、各陳述について確認の状態を説明できるかで判断します。契約案の全陳述が判断表に転記され、確認資料と基準日が示され、実際の確認責任者が特定されていること。既知の例外と未確認事項が分離され、買い手のDD指摘との対応が分かること。そして、残る論点が専門家への具体的な質問になっていることが目安です。
資料がない、古い、記憶しかない、範囲が不明という行を無理に閉じる必要はありません。その状態を記録したまま弁護士・税理士へ渡し、条項の範囲、適用場面、期間、責任上限、開示方法を相談します。M&Aの表明保証で売り手が避けたいのは、例外が存在すること自体より、何をどこまで確認したか分からないまま署名することです。陳述と資料と人を一行でつなぐと、残った不確実性を隠さず、署名前の協議事項へ変えられます。
本稿は一般的な情報提供を目的とするもので、法務・税務その他の個別判断を代替するものではありません。契約条項、例外開示、税務上の取扱いは案件の事情により異なるため、個別案件は弁護士・税理士等の専門家へ確認してください。
執筆・編集
ウルコト / 執筆・編集
中小企業庁や国税庁などの一次情報を優先し、会社売却・事業承継を初めて検討する方の判断材料を整理します。個別の税務・法務判断には踏み込みません。
- ・公的機関・各社公式サイトを優先して参照
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