会社売却時の役員借入金はどうする?売却代金と返済を分ける
会社売却で役員借入金を株式の売却代金と分け、債権者・残高・証憑・返済方針・資金源を確認表で整理する方法を解説。返済・放棄・継続を決める前に、弁護士・税理士へ渡す資料と質問も具体化します。
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会社売却で役員借入金が残っているなら、株式の売却代金に含めて一括で考えないことが出発点です。株主が買主から受け取る株式譲渡代金と、会社が債権者へ負う借入金を分け、役員借入金については返済、債権放棄、売却後も返済を続ける案を別に検討します。
ただし、「決済日に返してもらう」と決めるだけでは足りません。誰の債権なのか、いつの残高なのか、何で裏付けられるのか、返済原資はどこにあるのかが曖昧なら、買主との条件交渉、会社と債権者の合意、税務確認が混ざります。まず一行ずつ確認表にし、未確定事項がどの当事者の判断待ちかを見えるようにします。
会社売却代金と役員借入金を分ける理由
役員借入金は、オーナーや役員が会社へ資金を貸した結果、会社側に計上された負債です。国税庁税務大学校の研究論文も、株主借入金を原則として負債と認識する整理を示しています。ただし、これは研究上の結論であり、個別案件の税務上の取扱いを確定する通達や質疑回答ではありません(2026年9月21日確認、「中小法人の資本と負債の区分のあり方」印字389ページ「結びに代えて」)。
この原則に沿って、売り手の受取額は少なくとも次の二つに分けて管理します。
- 株式譲渡代金:株主が買主から受け取る対価として交渉するもの
- 役員借入金:会社が債権者へ返済するか、放棄または継続を検討する負債
同じ人物が株主と債権者を兼ねていても、受け取る根拠と支払う主体は同じとは限りません。総額だけを見て条件を了承せず、株式譲渡代金の条件と役員借入金の処理条件を別々に記録する必要があります。株式譲渡後の手取りを考える段階では、会社売却の税金と手取りの考え方も併せて確認できます。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」は、会社財産と経営者個人の財産が明確に分離されていない場合、M&Aに当たり整理が求められるとしています。最終契約後に整理する部分が残るときも、対象資産、移転方法、譲渡額を最終契約前に特定し、契約へ具体的に明記することを重視しています(2026年9月21日確認、第1章II 3(8)⑥、印字55ページ)。役員借入金を株式代金と分ける作業は、この一般原則を案件の負債整理へ応用するものです。
役員借入金を整理する確認表
次の表は、出典の一般原則を基にした実務上の提案です。ガイドライン所定の分類や義務ではありません。一つの勘定残高を債権者ごとの行に分けます。オーナー本人以外の役員や親族名義が混ざっていれば、名義を統合せず別行にします。
| 確認欄 | 記録する内容 | 確認できないときの扱い |
|---|---|---|
| 債権者 | 氏名、会社との関係、株主との同一・相違 | 誰が合意当事者になるかを弁護士へ確認 |
| 基準日残高 | 基準日、元本残高、利息を別欄で記録 | 元帳と入出金記録の差を未解決として残す |
| 証憑 | 契約書、入出金記録、返済履歴、利息計算資料 | 口頭説明だけで確定せず、不足資料を列挙 |
| 返済方針 | 返済、債権放棄、売却後も継続の検討案 | 「未定」とし、決定者と確認期限を記録 |
| 資金源 | 会社が使う予定の資金と、その利用可否の確認状況 | 買主との条件と会社の資金状態を確認待ちにする |
| 合意・記載先 | 株式譲渡契約で扱う事項、別途合意する事項 | 契約主体と文書化方法を弁護士へ確認 |
| 専門家確認 | 法務・税務の質問、回答者、回答日、前提資料 | 回答前の案を確定事項として扱わない |
中心になるのは最初の五欄です。後ろの二欄は、確認結果が口頭のまま消えないようにする記録欄です。この確認表も、出典の一般原則を基に記事が提案する実務上の方法であり、原典所定の様式や義務ではありません。
たとえば、帳簿には「役員借入金」と一括表示されていても、入金者が複数なら債権者欄を分けます。契約書がない行では、振込記録、返済履歴、利息計算資料の有無を証憑欄に並べ、債権の有無や内容を確認待ちにします。残高が一致しないときは、「試算表の基準日」「元帳の最終記帳日」「入出金記録の対象期間」を併記し、差異を質問として残します。照合が済むまで、いずれか一つの金額を確定額として採用しません。
返済方針欄には希望だけでなく条件を書きます。「決済までに返済を希望、会社資金を使えるか確認中」「売却後も継続する案、買主と契約条件を協議中」「放棄案、税務確認前につき未確定」という粒度です。資金源欄を独立させることで、返したいという意向と、会社が実際に支払うための前提を混同しにくくなります。
方針別に決めることを切り分ける
決済前または決済時に返済する案
返済案では、対象となる債権者と基準日残高を特定し、どの証憑を一致確認に使ったかを記録します。そのうえで、会社が支払う時点、使う資金、株式譲渡の決済との順序を条件表へ分けて記載します。「売却代金から精算」とだけ書くと、買主が払う株式代金の一部なのか、会社による借入返済なのかが読めません。支払主体、受取人、根拠となる債権をそれぞれ明示して弁護士へ渡します。
売却後も返済を続ける案
継続案では、株式が移った後も会社と債権者の関係が残る前提で、契約主体と合意方法を確認します。既存の契約書があるか、現在の残高と返済履歴がその内容に合うかを確認表へ記録します。買主との交渉事項と、会社・債権者間で別途合意する事項を色分けや列分けしておけば、誰の同意が未取得なのかを追えます。
債権放棄を検討する案
放棄は、帳簿の残高を消せば終わる処理として決められません。国税庁の質疑事例では、特定調停により法人債務者が債権放棄を受けた事実関係について、放棄額は法人税の所得計算上、原則として益金に算入されると回答し、欠損金の損金算入等の扱いも示しています。一方、同ページは、示された事実関係を前提にした一般的回答であり、具体的な取引では異なる課税関係が生じ得ると注意しています(2026年9月21日確認、「特定調停により債権放棄を受けた場合の一般的な取扱い」回答要旨1・2および注記、同ページ記載の基準日は令和7年8月1日)。
この質疑事例は特定調停を前提としており、通常の会社売却へ無条件に適用する根拠にはなりません。会社側の債務免除益や欠損金の扱いを含む課税関係を、実際の財務状態と予定する手続に即して税理士へ確認します。債権者側の処理も含め、誰が、どの債権を、どの手続で放棄する案なのかを示して相談する必要があります。
弁護士・税理士へ渡す資料と質問
中小M&Aガイドラインは、デュー・ディリジェンスを対象企業のリスク等を精査する調査とし、一般に資産・負債等の財務調査と、株式・契約内容等の法務調査などから構成されると説明しています(2026年9月21日確認、用語集「デュー・ディリジェンス(DD)」、印字21ページ)。財務DDについても、現在の財務状態を調査して財務リスクを特定することなどが目的であり、売り手が事前に問題点や必要資料を整理するため、セラーズDDを行う場合があるとしています(同日確認、同資料第2章V 1(2)④「財務DD」、印字114ページ)。
返済、放棄、継続の方針を確定する前に、次の資料を債権者別の確認表と対応づけます。この資料セットと相談分担は、出典の一般原則を基にした実務上の提案であり、原典所定の分類や義務ではありません。
- 総勘定元帳と直近試算表
- 金銭消費貸借契約書
- 貸付時の入出金記録
- 返済履歴
- 利息計算資料
- 株主名簿
- 買主と交渉中の条件表
資料名を並べるだけでなく、確認表の各行にファイル名、対象期間、原本の所在、不足の有無を記録します。DD全体の準備は売り手がM&Aのデュー・ディリジェンス前に準備することとつなげ、役員借入金については債権者別の索引を付けると、質問の対象が明確になります。
弁護士には、「株式譲渡契約に何を記載するか」だけでなく、会社と債権者の別途合意が必要になる範囲、各文書の契約主体、決済との順序を質問します。税理士には、採用候補の方針ごとに、会社側と債権者側の税務処理を確認します。相談時には結論だけを求めず、基準日、残高、証憑、予定する手続、資金源を前提として渡し、回答日と回答が依拠した資料を確認表へ戻します。
売り手が確定前に行う最終確認
確認表が埋まったら、株式譲渡代金の条件表と横に並べ、同じ金額や同じ支払が二重に扱われていないかを見ます。役員借入金の各行について、次の状態まで進めます。
- 債権者と基準日残高が特定され、根拠資料へたどれる
- 返済、放棄、継続のうち採用候補と未確定条件が分かれている
- 資金源と支払主体が記録されている
- 株式譲渡契約で扱う事項と別途合意する事項が区別されている
- 法務・税務の未回答事項に担当者と確認期限がある
一つでも空欄があれば、売却代金との合算額だけで合意せず、未確定事項として交渉記録へ残します。オーナーの最終受取総額を把握するだけでは、役員借入金を処理したことにはなりません。株式の対価と会社負債の返済を分け、債権者・残高・証憑・返済方針・資金源を一行ずつ確かめれば、弁護士と税理士が案件の前提に沿って検討できる資料になります。
本稿は2026年9月21日時点の公開情報に基づく一般的な情報です。契約関係、会計処理、課税関係は個別案件の事実や手続によって異なるため、方針の決定と文書化は弁護士・税理士等の専門家へ確認してください。
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ウルコト / 執筆・編集
中小企業庁や国税庁などの一次情報を優先し、会社売却・事業承継を初めて検討する方の判断材料を整理します。個別の税務・法務判断には踏み込みません。
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